SCIMとは?仕組みなどをわかりやすく解説

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SCIM

SCIMは(System for Cross-domain Identity Management、クロスドメイン・アイデンティティ管理システム)の頭文字をとった言葉である。これは、ユーザーのアイデンティティ情報を、異なるシステムやアプリケーション間で自動的かつ安全に同期・管理するためのオープンな標準規格を指す。

SCIMの概要

  • 企業がクラウドサービスSaaSの導入を進めるにつれて、従業員のアカウント管理(プロビジョニング、更新、停止)が複雑化する問題を解決するために開発された。

  • ID管理の煩雑さを解消し、セキュリティ水準を保ちながら、アカウント管理業務を自動化する仕組みを提供する。

  • SCIMが扱う「アイデンティティ情報」とは、主にユーザー名、メールアドレス、所属グループといった、アカウントの基本情報である。

標準規格としての立ち位置

SCIMは、IETF(Internet Engineering Task Force)によって策定されたRFC 7643(SCIM: Schema)とRFC 7644(SCIM: Protocol)という文書群によって定義されている。この公開された定義があるため、特定のベンダーに依存しない、相互運用性の高いID連携が実現される。

SCIMが扱う主なリソース

SCIMでは、管理の対象となるデータをリソースと呼ぶ。最も基本的なリソースは「User」(ユーザー)と「Group」(グループ)の2種類である。SCIMの動作は、これらのリソースを標準化された方法で作成・参照・更新・削除することに集中している。

SCIMの仕組み

SCIMの構造は、主にクライアント(アイデンティティプロバイダー、IdP)とサーバー(サービスプロバイダー、SP)の二者間で成り立っている。この両者がRESTful APIJSON形式のデータ構造を用いて通信し、ID情報をやり取りするのがSCIMの基本原理である。

  • RESTful APIJSON:SCIMは、Web上で広く使われるRESTアーキテクチャを採用したAPIを定義している。これにより、汎用性が高まり、さまざまなプラットフォーム間でのデータの交換が容易になる。データ形式には軽量で扱いやすいJSONJavaScript Object Notation)を用いる。

  • プロビジョニングとデプロビジョニング:

    • プロビジョニング:IdP側で新しいユーザーが作成されたり、情報が更新されたりした際、その変更内容をSP側のシステムに自動的に作成・反映させる流れである。手作業によるアカウント作成の手間をなくす。

    • デプロビジョニング:ユーザーが退職するなどしてIdP側でアカウントが停止された際、SP側のアカウントも即座に無効化または削除される働きである。放置されがちな休眠アカウントをなくし、情報漏洩の危険を回避する。

  • スキーマ(定義)の標準化:SCIMは、ユーザーやグループといったリソースが持つべき属性(ユーザー名、メールなど)を標準規格として定めている。この共通の定義があるため、異なるサービス間でも情報の整合性が保たれ、連携時にデータの不一致が起きにくい。

RESTfulなAPIによる操作

SCIMプロトコルは、標準的なHTTPメソッド(GET、POST、PUT、PATCH、DELETE)を使い、リソースに対するCRUD操作(Create, Read, Update, Delete)を定義している。例えば、新しいユーザーを作成する場合はPOSTメソッドを、ユーザー情報を部分的に変更する場合はPATCHメソッドを利用する。

データの構造化とJSON形式

SCIMメッセージの本体はJSON形式で記述される。このJSONデータは、標準化されたスキーマに基づいて構成されており、例えばユーザーのファーストネーム、ラストネーム、メールアドレスといった属性情報が明確なキー(項目名)を持って格納される。この構造化のおかげで、システム側でのデータの解釈が統一される。

スキーマ拡張の取り扱い

SCIMは標準スキーマを持っているが、特定のサービスが必要とする追加の属性情報を扱うために、スキーマを拡張する仕組みも備えている。これにより、標準の枠を超えた柔軟な情報管理も可能になっている。

SCIMの優位性

SCIMを導入し運用することには、多くの利点が伴う。特に大規模な組織や多くのSaaSを利用する企業にとって、その価値は非常に大きい。

  • 作業の負担を軽減する:アカウント作成や変更、削除といった一連のID管理作業が自動化されるため、IT部門の担当者が手動で設定する繰り返し作業の負荷を劇的に減らす。これにより、担当者はより戦略的な業務に専念できるようになる。

  • セキュリティ水準を高める:退職や異動に伴うアカウントの停止がリアルタイムに、そして確実に実施される。これは、退職者がアクセス権を保持し続けることによる内部からの情報流出のきっかけを排除する上で、極めて重要な働きとなる。

  • 事業展開のスピードを向上させる:新しいクラウドサービスを導入する際や、組織変更で部署のメンバー構成が変わる際、アカウント設定にかかる時間が大幅に短縮される。これにより、新しいシステムやチーム体制への移行の勢いを失わない。

人的ミスの防止

手作業でアカウントを作成・更新する場合、ユーザー名の入力ミスやグループへの所属漏れといった人為的な誤りが起きやすい。SCIMによる自動連携は、元となるIdPのデータが正確であれば、SP側でも情報が忠実に再現されるため、ミスの発生を極小化する。

コンプライアンスの順守

従業員の入社・退職時に、必要なシステムへのアクセス権を速やかに付与・剥奪することは、内部統制や監査対応の要求事項となることが多い。SCIMは、このIDライフサイクル管理の徹底を支えるため、企業の法令順守体制を強固にする土台となる。

費用対効果の向上

ID管理に費やしていた人件費が削減されるだけでなく、アカウント停止の遅延によるセキュリティ事故の可能性を下げることにも貢献する。これは、見えにくいリスクの費用を実質的に減らすことにつながる。

SCIMの留意点

SCIMは非常に有用な仕組みだが、導入や運用においていくつかの注意点も存在する。これを理解せずに進めると、かえって管理の複雑さが増すことがある。

  • IdPとSP間の対応度の確認:SCIMは標準規格だが、サービスプロバイダー(SP)によってサポートしている機能の範囲に違いがある。例えば、ユーザーの作成(プロビジョニング)は対応していても、グループ情報の同期や複雑な属性情報の更新に未対応の場合がある。導入前に、利用したい機能が両者で保証されているか確認が必要である。

  • 複雑な属性情報の扱い:SCIMの標準スキーマに含まれない、企業独自の役職名や特殊な権限といったカスタム属性を扱う場合、両システムでその属性の定義やマッピングを正確に行う必要がある。この設定が不十分だと、同期エラーや意図しないデータの書き換えが生じる恐れがある。

  • 初期設定における高い専門性:IdPとSPの間で、どの情報をどのように同期させるかというマッピングの設計や、接続設定には深い専門知識が求められる。特に、既存の複雑なActive Directoryなどの環境に後から導入する場合、設計の緻密さが成功を左右する。

認証情報の取り扱い

SCIMはID情報の連携に特化しており、パスワードの同期は原則として行わない。パスワードを同期する必要がある場合は、別の専用のパスワード同期ツールやプロトコルを併用する必要がある。SCIMは、あくまで「誰がいるか、その基本情報は何か」を伝える役割に専念している。

同期エラーへの対処

ネットワークの瞬断や、IdPとSP間でデータの整合性が崩れた際に、同期エラーが発生することがある。このエラーが自動的に修復されない場合、IT担当者が手動で状態を修正する必要が生じる。エラー監視体制と復旧手順を整えておくことが求められる。

双方向同期の複雑さ

SCIMは原則としてIdPからSPへの一方向の同期が主流だが、双方向の同期を実現するサービスも存在する。双方向同期は利便性が高い反面、どちらのシステムでの変更を正とするか判断が難しくなり、データの競合や上書きといった事故のリスクが高まるため、導入には慎重さが要る。

SCIMの対応サービス

SCIMは、その有用性から、多くの主要なID管理システムやSaaSで採用が広がっている。SCIM対応は、サービスの連携の容易さと管理の質を示すひとつの指標とも言える。

  • 主要なIdP(Identity Provider):

    • Azure AD (Microsoft Entra ID):MicrosoftのクラウドID管理の基盤であり、SCIMを介して多様なSaaSとの連携を自動化する機能を持っている。

    • Okta、OneLogin:これらの独立したIDaaS(Identity as a Service)プラットフォームは、SCIMを核となる連携機能として提供し、数千のアプリケーションとのプロビジョニングを標準化する。

  • 広く使われるSaaS(Service as a Service):

    • Salesforce、ServiceNow、Dropbox、Slackなど、エンタープライズ領域で広く使われる多くのクラウドアプリケーションがSCIM 2.0に対応している。これにより、これらのサービスへのユーザー招待やアクセス権の管理がスムーズになる。

  • ID同期機能を持つゲートウェイオンプレミスのID基盤(例:Active Directory)とクラウドサービスを連携させるためのゲートウェイ製品やコネクタも、SCIMを通じてクラウド側との整合性を保持する仕組みを実装しているものが多い。

SCIM 1.1から2.0への変遷

SCIMは初期のバージョン1.1から、より堅牢性と拡張性を高めた2.0へと進化している。現在、市場で提供されるほとんどのサービスはSCIM 2.0に対応している。2.0では、データモデルの改善やPATCH操作の標準化などが行われ、より効率的なデータ更新が可能になった。

サービスのコネクタ提供

多くのIdPは、主要なSaaSとのSCIM連携を容易にするために、専用のコネクタやテンプレートを用意している。これにより、ユーザー側で複雑なAPI設定を手動で行う手間が省けるようになっている。

SCIMとOIDCの違い

アイデンティティ管理の世界では、「SCIM」と「OIDC (OpenID Connect)」という二つの略語が頻繁に登場する。これらは連携の目的が異なり、多くの場合補完関係にある。

  • OIDCの役割(認証の側面):

    • OIDCは、認証(Authentication)、すなわち「そのユーザーが誰であるかを確認する」ためのプロトコルである。具体的には、ユーザーがサービス(SP)にログインしようとした際、IDプロバイダー(IdP)に本人確認を求め、認証が成功したらトークン(ID Token)を発行し、その正当性をもってSPへのアクセスを許可する役割を担う。

    • 例えるなら、OIDCは「入館証を見せて、あなたが入ってもよい人かを確認する」手順である。

  • SCIMの役割(認可・管理の側面):

    • SCIMは、プロビジョニング(Provisioning)、すなわち「アカウントそのものを作成・維持・更新する」ための規格である。OIDCのように認証を行う機能はなく、専らID情報のライフサイクル管理に特化している。

    • 例えるなら、SCIMは「新しい従業員が入社した際、IDカードとオフィス内のシステムアカウントを事前に用意する」仕組みである。

  • 補完関係:多くの企業では、OIDC/SAML(認証の技術)を用いてユーザーのシングルサインオン(SSO)を実現し、同時にSCIMを用いてユーザーのアカウント情報を自動で同期することで、セキュリティと利便性を両立させている。SCIMが**アクセスを許可する「鍵」を準備し、OIDCがその鍵を使って「扉を開ける」**行為を担当している。

SAMLとの対比

OIDCと同様にシングルサインオン(SSO)で利用される技術としてSAML(Security Assertion Markup Language)がある。SAMLもOIDCも認証が主な目的であり、SCIMとは役割が異なる。SAMLはXMLベース、OIDCはJSONベースであり、OIDCの方がより現代的でモバイルアプリケーションなどとの親和性が高いと評価されている。

ID連携の全体像におけるSCIMの位置

ID連携の全体像を捉えると、SCIMは「アカウントの維持管理」を担い、OIDCやSAMLは「アクセス時の本人確認」を担う。両者が適切に機能することで、ユーザーはスムーズに利用開始でき、企業は安全にサービスを提供できる状態が整う。

まとめ

SCIM(System for Cross-domain Identity Management)は、今日のマルチクラウド環境において、ユーザーのID管理を自動化し、セキュリティと効率を両立させるための不可欠な標準規格である。

RESTful APIと標準化されたJSONスキーマを用いることで、IdPとSP間でのユーザーアカウントの作成、更新、削除といったライフサイクル管理が円滑に実行される。この仕組みにより、IT管理者の手作業による負担が軽減され、退職者などのアカウントが直ちに停止されるため、情報資産の保護水準が向上する。

SCIMはOIDC/SAMLのような認証機能ではなく、アカウントの存在と属性を管理することに特化した仕組みであり、両者を組み合わせることで、安全かつ迅速なサービス利用が可能になる。SCIMへの対応は、クラウドサービスの使いやすさと企業管理体制の成熟度を測るうえで、重要な評価基準となっている。

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