WAFとは、Web Application Firewallの略称であり、Webアプリケーションへの攻撃を検知・防御するセキュリティ対策の一つである。
WAFの仕組み
WAFは、Webアプリケーションとクライアント(Webブラウザなど)の間で通信を中継し、HTTP/HTTPSリクエストやレスポンスを検査することで攻撃を検知・防御する。その仕組みは、大きく分けて以下の3つの要素で構成される。
- リクエスト/レスポンスの検査: WAFは、Webアプリケーションとの間で送受信されるHTTP/HTTPSリクエストやレスポンスを検査する。検査対象は、URL、ヘッダー、パラメータ、ボディなど多岐にわたる。
- 攻撃の検知: WAFは、検査したリクエストやレスポンスに、既知の攻撃パターンやルールに合致するものがないかを確認する。攻撃パターンは、SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング(XSS)、クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)など、一般的なWebアプリケーション攻撃に対応したものが多く登録されている。
- 防御アクション: WAFは、攻撃を検知した場合、事前に設定された防御アクションを実行する。防御アクションには、リクエストのブロック、レスポンスの修正、アラートの送信などがある。
WAFは、これらの要素を組み合わせることで、Webアプリケーションへの攻撃を効果的に検知・防御する。
検査方式
WAFの検査方式には、主に以下の2種類がある。
- シグネチャベース検査: 既知の攻撃パターン(シグネチャ)と照合することで攻撃を検知する。誤検知が少ないが、未知の攻撃には対応できないというデメリットがある。
- アノマリーベース検査: 正常なトラフィックのパターンを学習し、そこから逸脱する異常なトラフィックを検知する。未知の攻撃にも対応できるが、誤検知が発生しやすいというデメリットがある。
多くのWAFは、これら2つの検査方式を併用することで、より広範な攻撃に対応できるようになっている。
WAFの配置
WAFは、Webアプリケーションの前段に配置される。具体的には、Webサーバーやロードバランサーの前に設置されることが多い。WAFを配置することで、Webアプリケーションに到達する前に攻撃を検知・防御できるため、Webアプリケーションへの負荷を軽減できるというメリットがある。
WAFのメリット
WAFを導入することで、Webアプリケーションのセキュリティ対策において、以下のようなメリットが得られる。
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Webアプリケーションの脆弱性対策: WAFは、Webアプリケーションの脆弱性を悪用した攻撃を検知・防御する。SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング(XSS)、クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)など、一般的なWebアプリケーション攻撃に対応できるため、開発者がセキュリティ対策を施していない、もしくは対策が不十分なWebアプリケーションであっても、一定の保護が可能になる。
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ゼロデイ攻撃対策: シグネチャベースの検知に加え、アノマリーベースの検知機能を備えたWAFでは、未知の攻撃パターンやゼロデイ攻撃にも対応できる可能性がある。WAFが正常なトラフィックを学習し、そこから逸脱する異常な挙動を検知することで、新たな脅威からWebアプリケーションを保護する。
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セキュリティインシデントの防止: WAFは、Webアプリケーションへの攻撃を検知・防御することで、情報漏えいやサービス停止などのセキュリティインシデントの発生を未然に防ぐ。これにより、企業の評判や顧客からの信頼を失うリスクを低減できる。
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セキュリティ対策の効率化: WAFは、Webアプリケーションのセキュリティ対策を自動化する。手動でのセキュリティ対策と比較して、WAFはリアルタイムで攻撃を検知・防御できるため、人的リソースの削減やセキュリティ対策の効率化に貢献する。
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コンプライアンス対応: WAFは、PCI DSSやGDPRなどのセキュリティコンプライアンスの要件を満たすために必要なセキュリティ対策の一つである。WAFを導入することで、これらのコンプライアンスに対応しやすくなる。
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セキュリティ状況の可視化: WAFは、Webアプリケーションへの攻撃を検知した際に、詳細なログを記録する。このログを分析することで、攻撃の種類や頻度、攻撃元などを把握し、セキュリティ対策の改善に役立てることができる。
WAFは、Webアプリケーションのセキュリティ対策において、多岐にわたるメリットを提供する。導入を検討する際は、これらのメリットを踏まえ、自社のWebアプリケーションのセキュリティ要件に合ったWAFを選択することが重要である。
WAFのデメリット
WAFはWebアプリケーションのセキュリティ対策として有効な手段であるが、導入・運用する上でいくつかのデメリットも存在する。
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誤検知と過検知: WAFは、正規のトラフィックを攻撃と誤検知したり、攻撃を見逃す過検知を起こす可能性がある。誤検知は、正規ユーザーのアクセスを妨げ、Webサイトやサービスの可用性を低下させる。過検知は、セキュリティ上の脅威を見逃し、Webアプリケーションを危険にさらす可能性がある。WAFのルール設定やチューニングには注意が必要であり、専門知識を持つ担当者が必要となる場合もある。
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運用負荷: WAFの導入・運用には、専門的な知識やスキルが求められる。適切なルール設定や定期的なメンテナンス、ログ分析など、WAFを効果的に運用するためには、相応の人的リソースが必要となる。また、WAFの誤検知や過検知に対応するためには、迅速な対応が求められるため、24時間365日の監視体制が必要となる場合もある。
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コスト: WAFの導入・運用には、コストがかかる。アプライアンス型WAFは、ハードウェアの購入費用や設置費用、保守費用などがかかる。ソフトウェア型WAFは、ライセンス費用やサーバーの増強費用などがかかる。クラウド型WAFは、月額利用料やトラフィック量に応じた従量課金制であることが多い。
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パフォーマンスへの影響: WAFは、Webアプリケーションとの間でトラフィックを中継するため、Webアプリケーションのパフォーマンスに影響を与える可能性がある。特に、大量のトラフィックを処理する場合や、複雑なルールを設定している場合、レスポンス時間の遅延やサーバー負荷の増加などが発生する可能性がある。
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全ての攻撃を防げるわけではない: WAFは、Webアプリケーションへの攻撃を検知・防御する上で有効な手段であるが、全ての攻撃を防げるわけではない。WAFが検知できない攻撃や、WAFを迂回する攻撃も存在する。WAFは、他のセキュリティ対策と組み合わせて、多層的な防御を行うことが重要である。
WAFを導入する際は、これらのデメリットを十分に理解し、自社のWebアプリケーションの特性やセキュリティ要件に合わせて、適切なWAFを選択し、運用することが重要である。
代表的なWAFのサービス
WAFは、様々なベンダーから多種多様なサービスが提供されている。ここでは、代表的なWAFサービスをいくつか紹介する。
クラウド型WAF
- AWS WAF: Amazon Web Services (AWS) が提供するクラウド型WAF。AWSの他のサービスとの連携が容易であり、スケーラビリティが高い。
- Cloudflare WAF: Cloudflareが提供するクラウド型WAF。コンテンツデリバリーネットワーク (CDN) と統合されており、Webサイトのパフォーマンス向上にも貢献する。
- Akamai Kona Site Defender: Akamaiが提供するクラウド型WAF。大規模なDDoS攻撃対策にも対応できる。
ソフトウェア型WAF
- ModSecurity: オープンソースのWAFエンジン。ApacheやNginxなどのWebサーバーに組み込んで利用できる。柔軟性が高く、カスタマイズ性にも優れている。
- Naxsi: Nginx専用のWAF。軽量で高速な動作が特徴である。
ハードウェア型WAF
- Imperva Web Application Firewall: Impervaが提供するハードウェア型WAF。高性能で信頼性が高い。大規模なWebサイトやミッションクリティカルなシステムに適している。
- F5 BIG-IP ASM: F5 Networksが提供するハードウェア型WAF。ロードバランシング機能やSSLオフロード機能も備えている。
WAFの選択は、Webアプリケーションの規模、セキュリティ要件、予算、運用体制などを考慮して行う必要がある。クラウド型WAFは、導入が容易でスケーラビリティが高いが、インターネット回線の影響を受ける可能性がある。ソフトウェア型WAFは、比較的安価で導入しやすいが、Webサーバーの負荷が増加する可能性がある。ハードウェア型WAFは、高性能で信頼性が高いが、高価である。
WAFとEDRの違い
WAFと同様のWebアプリケーションのセキュリティ対策として、EDR(Endpoint Detection and Response)がある。どちらもサイバー攻撃からシステムを守るためのツールであるが、以下の違いがある。
特徴 | WAF | EDR |
---|---|---|
守るべき範囲 | Webアプリケーション | エンドポイント |
検知・防御方法 | ネットワークトラフィックの監視 | エージェントによるシステム監視 |
対象となる攻撃 | SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング、Webアプリケーションへの不正アクセス | マルウェア感染、不正な操作、内部不正 |
主な機能 | 攻撃の検知・防御、脆弱性診断、ログ分析 | 脅威の検知・分析・対応、インシデント調査、フォレンジック |
WAFは、Webアプリケーションの脆弱性を悪用したSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの攻撃をブロックし、WebサイトやWebサービスの安全性を確保するのに対し、EDRは、マルウェア感染や不正な操作などの異常を検知し、被害の拡大を防ぐセキュリティ対策ソフトである。
WAFとEDRの最大の違いは、守るべき範囲である。WAFは、Webサーバーの前に設置され、外部からのトラフィックを監視する。不正なアクセスや攻撃パターンを検知すると、該当するトラフィックを遮断し、Webアプリケーションへの侵入を防ぐ。いわば、Webアプリケーションを守るための「盾」のような存在である。一方、EDRは、エンドポイントにエージェントと呼ばれるソフトウェアをインストールし、システムの挙動を監視する。不審なプロセスやファイルの変更、ネットワーク通信などを検知すると、管理者にアラートを通知し、迅速な対応を促す。いわば、エンドポイント内部を守るための「監視カメラ」のような存在である。
Webアプリケーションは外部に公開されており、常に攻撃の対象となるため、WAFによる防御は必須と言えるが、エンドポイントは、内部からの脅威にもさらされる。そこでEDRも併用することで、マルウェア感染や内部不正などの脅威からも保護することが可能となる。
まとめ
WAFは、Webアプリケーションへの攻撃を検知・防御するセキュリティ対策の一つであり、WebサイトやWebサービスを保護するために重要な役割を担う。WAFを導入することで、Webアプリケーションの脆弱性対策、セキュリティインシデントの防止、セキュリティ対策の効率化、コンプライアンス対応などのメリットが得られる。
WAFとEDRは、それぞれ異なる役割を持つセキュリティ対策ソフトである。Webアプリケーションのセキュリティを強化するためには、WAFとEDRを併用することが重要だ。WAFで外部からの攻撃を防ぎ、EDRで内部からの脅威を検知・対応することで、多層的なセキュリティ対策を実現できる。