アジャイル開発とは、ソフトウェア開発において、仕様を完全に固めずに、小さな単位で機能を開発し、その都度顧客にフィードバックを得ながら、徐々に完成度を高めていく開発手法である。
アジャイル開発の歴史
アジャイル開発の歴史は、1990年代半ばに始まった。当時、ソフトウェア開発では、ウォーターフォール開発と呼ばれる手法が主流だった。ウォーターフォール開発では、要求定義、設計、実装、テスト、運用という各フェーズを順番に実施していく。しかし、ソフトウェア開発の要求は、常に変化するものであり、ウォーターフォール開発では、要求の変化に対応することが難しかった。
この課題を解決するために、アジャイル開発の考え方が提唱された。アジャイル開発では、ソフトウェアを小さな単位に分割し、その単位を反復的に開発していく。これにより、要求の変化に柔軟に対応できるようになった。
アジャイル開発の原型は、1986年に発表された「スクラム」という手法である。スクラムは、ソフトウェア開発のプロジェクトを、1週間から4週間の期間で区切った「スプリント」を反復的に実施する手法である。
1990年代後半には、アジャイル開発の考え方をベースとしたさまざまな手法が提唱された。2000年代に入ると、アジャイル開発は、ソフトウェア開発のプロジェクト管理手法として、徐々に普及し始めた。2001年には、アジャイルソフトウェア開発宣言が発表された。アジャイルソフトウェア開発宣言は、アジャイル開発の基本的な考え方をまとめた文書である。
2010年代以降、アジャイル開発は、ソフトウェア開発のプロジェクトにおいて、主流の手法として定着しつつある。
アジャイル開発のメリット
アジャイル開発は、ソフトウェア開発のプロジェクト管理手法の一種であり、近年注目を集めている。アジャイル開発には、以下のメリットが挙げられる。
1. 要求の変化への柔軟な対応
ソフトウェア開発において、要求が変化することは珍しくない。アジャイル開発では、要求の変化に柔軟に対応できるように、開発サイクルを短く設定している。そのため、要求の変化があっても、すぐに対応することができる。
2. 早期のフィードバック
アジャイル開発では、開発の初期段階から顧客にソフトウェアの成果物を見せる。これにより、顧客のフィードバックを得ることができ、ソフトウェアの品質を向上させることができる。
3. 顧客満足度の向上
顧客の要望を反映したソフトウェアを開発することで、顧客満足度の向上につながる。アジャイル開発では、顧客との協業を重視しているため、顧客の要望をより正確に把握し、反映することができる。
4. 生産性の向上
アジャイル開発では、チームメンバーが自律的に行動するため、生産性が向上する。また、開発サイクルが短いため、開発の効率化を図ることができる。
5. 品質の向上
アジャイル開発では、テストを繰り返し実施することで、品質の向上を図ることができる。また、顧客のフィードバックを得ることで、ソフトウェアの品質を向上させることができる。
アジャイル開発の種類
アジャイル開発の代表的な手法としては、以下のようなものが挙げられる。
1. スクラム
スクラムは、アジャイル開発の代表的な手法であり、最も広く利用されている。スクラムでは、開発を1週間から4週間の期間で区切った「スプリント」を反復的に実施する。各スプリントでは、以下の5つのプロセスを実施する。
- 計画(Planning)
- 実行(Doing)
- 確認(Review)
- 振り返り(Retrospection)
スクラムは、シンプルでわかりやすい手法であるため、導入しやすいというメリットがある。また、チームメンバーのコミュニケーションやコラボレーションを促進する効果も期待できる。
2. エクストリームプログラミング(XP)
エクストリームプログラミング(XP)は、アジャイル開発の代表的な手法の1つであり、ソフトウェア開発の品質を重視する手法である。XPでは、以下の12の原則に基づいて開発を行う。
- 小規模なリリース
- テスト駆動開発
- ペアプログラミング
- 継続的インテグレーション
- 継続的デリバリー
- シンプルな設計
- リファクタリング
- コーディング規約
- 自己組織化チーム
- 顧客とのコミュニケーション
- 計画の変更
XPは、品質を重視する開発を行うため、顧客満足度の向上につながりやすいというメリットがある。また、チームメンバーのスキルや経験を向上させる効果も期待できる。
3. ユーザー機能駆動開発(FDD)
ユーザー機能駆動開発(FDD)は、アジャイル開発の代表的な手法の1つであり、ソフトウェアの機能から開発を進めていく手法である。FDDでは、以下の4つのフェーズに分けて開発を行う。
- 機能分析
- 機能設計
- 機能実装
- テスト
FDDは、機能の優先順位を明確にすることで、顧客のニーズを満たしやすいというメリットがある。また、開発の進捗を把握しやすいというメリットもある。
4. リーンソフトウェア開発(LSD)
リーンソフトウェア開発(LSD)は、アジャイル開発の代表的な手法の1つであり、ムダを排除して効率的に開発を行う手法である。LSDでは、以下の5つの原則に基づいて開発を行う。
- 価値
- 流れ
- 引き起こす
- 学習
- 尊敬
LSDは、ムダを排除することで、開発の効率化を図ることができるというメリットがある。また、チームメンバーのモチベーションを向上させる効果も期待できる。
5. カンバン
カンバンは、アジャイル開発の代表的な手法の1つであり、タスクを可視化して管理する手法である。カンバンでは、以下の3つの列でタスクを管理する。
- やるべきこと
- やっていること
- やったことがある
カンバンは、タスクの進捗を可視化することで、チームメンバーのコミュニケーションやコラボレーションを促進する効果が期待できる。
アジャイル開発の課題
アジャイル開発には、以下の課題が挙げられる。
1. 経験やスキルが求められる
アジャイル開発は、ウォーターフォール開発とは異なる考え方に基づいている。そのため、アジャイル開発を成功させるためには、経験やスキルが求められる。
具体的には、以下のスキルが求められる。
- ソフトウェア開発の基礎知識
- アジャイル開発の原理や手法に関する知識
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
- リーダーシップ
アジャイル開発を導入する際には、これらのスキルを有するメンバーを揃える必要がある。
2. 組織文化の変化が必要
アジャイル開発を成功させるためには、組織文化の変化が必要である。アジャイル開発では、開発チームが自律的に行動することが求められるため、従来のトップダウン型の組織文化では、うまく機能しない可能性がある。
具体的には、以下の変化が必要である。
- 失敗を恐れない文化
- コミュニケーションを重視する文化
- チームワークを重視する文化
アジャイル開発を導入する際には、組織文化の変化を促すための取り組みが必要である。
3. 仕様変更への対応
アジャイル開発は、要求の変化への柔軟な対応を重視している。しかし、仕様変更が頻繁に発生すると、開発のスケジュールやコストに影響を与える可能性がある。
仕様変更への対応を円滑に行うためには、以下の取り組みが必要である。
- 仕様変更の可能性を事前に洗い出す
- 仕様変更が発生した場合の対応方法を明確にする
- 仕様変更が発生した場合の影響を最小限に抑える
4. 品質管理の難しさ
アジャイル開発では、開発サイクルが短いため、品質管理が難しいという課題もある。
品質管理を徹底するためには、以下の取り組みが必要である。
- テストを自動化する
- 品質基準を明確にする
- 品質管理の責任者を明確にする
5. プロジェクト管理の難しさ
アジャイル開発では、プロジェクトの進捗を管理することが難しいという課題もある。
プロジェクト管理を徹底するためには、以下の取り組みが必要である。
- プロジェクトの目標やスケジュールを明確にする
- 定期的に進捗状況を確認する
- 必要に応じて計画を修正する
まとめ
アジャイル開発は、ソフトウェア開発において、仕様を完全に固めずに、小さな単位で機能を開発し、その都度顧客にフィードバックを得ながら、徐々に完成度を高めていく開発手法である。
アジャイル開発には、さまざまな手法が存在するため、プロジェクトの特性やチームの状況に合わせて、適切な手法を選択することが重要である。
アジャイル開発には、生産性や品質向上、要求の変化への柔軟な対応などのメリットがある他、経験やスキル、組織文化の変化など、さまざまな課題もある。アジャイル開発を成功させるためには、これらの課題を認識し、適切な対策を講じることが重要である。