責任共有モデルとは、クラウドサービスにおけるセキュリティとコンプライアンスに関する責任範囲を、クラウド事業者と利用者間で明確に区分する考え方である。
これは、クラウドサービスの利用に伴うリスクを適切に管理し、安全なクラウド環境を実現するために不可欠なフレームワークである。
責任共有モデルの概要
クラウドサービスの利用が進む現代において、セキュリティ対策はますます重要性を増している。しかし、オンプレミス環境とは異なり、クラウド環境では責任の所在が曖昧になりやすい。そこで重要となるのが、「責任共有モデル」という考え方である。
責任共有モデルとは、クラウドサービスにおけるセキュリティとコンプライアンスに関する責任範囲を、クラウド事業者と利用者間で明確に区分する考え方である。これは、クラウドサービスの利用に伴うリスクを適切に管理し、安全なクラウド環境を実現するために不可欠なフレームワークである。
責任共有モデルのメリット
1. セキュリティリスクの明確化
責任範囲を明確にすることで、誰がどの部分のセキュリティ対策に責任を持つべきかを明確化することができる。これは、以下のようなメリットをもたらす。
- 自社の責任範囲を認識し、必要な対策を講じることができる
- クラウド事業者の責任範囲を理解し、適切なサービスを選択することができる
- セキュリティリスクを適切に評価し、対策を講じるための根拠となる
2. セキュリティ対策の効率化
責任範囲を明確にすることで、自社の責任範囲に集中して対策を講じること
3. コンプライアンスの遵守
責任範囲を明確にすることで、業界や法規制に則したコンプライアンス要件を遵守しやすくなる。
4. クラウド事業者との連携
責任範囲を明確にすることで、クラウド事業者と連携して、より効果的なセキュリティ対策を講じることができる。
5. コストの削減
責任共有モデルは、以下のような理由でコスト削減に貢献する。
- 自社の責任範囲に集中して対策を講じることで、不要なセキュリティ対策コストを削減できる
- クラウド事業者のセキュリティ対策を活用することで、自社でセキュリティ対策を構築するよりもコストを抑えられる
- セキュリティリスクを低減することで、セキュリティインシデント発生による損失を回避できる
6. その他のメリット
責任共有モデルには、以下のようなその他のメリットもある。
- セキュリティに関する透明性の向上
- セキュリティに関する意思決定の迅速化
- クラウドサービスの導入と運用を容易にする
責任共有モデルの責任範囲
責任共有モデルでは、クラウドサービスにおけるセキュリティとコンプライアンスに関する責任範囲を、以下の要素ごとに、クラウド事業者と利用者間で明確に区分している。
1. クラウド事業者の責任範囲
クラウド事業者は、以下の要素のセキュリティと可用性を責任を持つ。
- インフラストラクチャ層:データセンター、ネットワーク、サーバーなどの物理的なインフラストラクチャ
- プラットフォーム層:オペレーティングシステム、仮想化技術、ミドルウェアなどのプラットフォーム層
- 物理的なセキュリティ:データセンターの物理的なセキュリティ、アクセス制御、環境管理など
- ネットワークセキュリティ:クラウド環境全体のネットワークセキュリティ、ファイアウォール、侵入検知システムなど
- インフラストラクチャの可用性:サービスレベル契約(SLA)に基づいて、インフラストラクチャの可用性を保証
2. 利用者の責任範囲
利用者は、以下の要素のセキュリティとデータ保護責任を負う。
- アプリケーション層:利用者が開発・運用するアプリケーション
- データセキュリティ:クラウド上のデータの暗号化、アクセス制御、バックアップなど、データセキュリティ対策
- ゲストOSのセキュリティ:仮想マシン上で使用するゲストOSのセキュリティ設定、パッチ適用など
- ユーザーアカウントとアクセス管理:クラウドサービスへのアクセス権限の管理、パスワード管理など
- コンプライアンス:利用者自身の業界や法規制に則したコンプライアンス要件の遵守
責任共有モデルの責任範囲の詳細
1. インフラストラクチャ層
クラウド事業者は、データセンター、ネットワーク、サーバーなどの物理的なインフラストラクチャのセキュリティと可用性を責任を持つ。具体的には、以下の対策を講じる。
- データセンターの物理的なセキュリティ対策:侵入防止、監視、環境管理など
- ネットワークセキュリティ対策:ファイアウォール、侵入検知システム、DDoS対策など
- インフラストラクチャの可用性:冗長化、バックアップ、災害復旧など
2. プラットフォーム層
クラウド事業者は、オペレーティングシステム、仮想化技術、ミドルウェアなどのプラットフォーム層のセキュリティと運用責任を負う。具体的には、以下の対策を講じる。
- オペレーティングシステムのセキュリティ対策:パッチ適用、脆弱性対策、ユーザーアカウント管理など
- 仮想化技術のセキュリティ対策:仮想マシン間の分離、セキュリティグループの設定など
- ミドルウェアのセキュリティ対策:脆弱性対策、パッチ適用、設定管理など
3. アプリケーション層
利用者は、利用者が開発・運用するアプリケーションのセキュリティとデータ保護責任を負う。具体的には、以下の対策を講じる。
- アプリケーションのセキュリティ対策:脆弱性対策、入力チェック、出力エンコーディングなど
- データの暗号化:機密データの暗号化、アクセス制御、バックアップなど
- アクセス制御:アプリケーションへのアクセス権限の管理、パスワード管理など
4. データセキュリティ
利用者は、クラウド上のデータの暗号化、アクセス制御、バックアップなど、データセキュリティ対策を講じる必要がある。具体的には、以下の対策を講じる。
- データの暗号化:機密データの暗号化、アクセス制御、バックアップなど
- アクセス制御:データへのアクセス権限の管理、パスワード管理など
- バックアップ:データの定期的なバックアップ、災害復旧計画
5. ゲストOSのセキュリティ
責任共有モデルの例
責任共有モデルは、クラウドサービス事業者によって異なるが、一般的には以下の要素が共通している。
- インフラストラクチャ層:クラウド事業者が責任を持つ
- プラットフォーム層:クラウド事業者が責任を持つ
- アプリケーション層:利用者が責任を持つ
- データセキュリティ:利用者が責任を持つ
1. AWS
AWSの責任共有モデルでは、以下の要素が明確に定義されている。
-
AWSの責任範囲
- インフラストラクチャのセキュリティと可用性
- ネットワークのセキュリティと可用性
- データセンターの物理的なセキュリティ
- リージョンとアベイラビリティーゾーンの冗長化
- サービスレベル契約(SLA)の遵守
-
利用者の責任範囲
- ゲストOSのセキュリティ設定
- アプリケーションのセキュリティ
- データの暗号化とアクセス制御
- コンプライアンスの遵守
- ユーザーアカウントとアクセス権限の管理
2. Azure
Azureの責任共有モデルでは、以下の要素が明確に定義されている。
-
Azureの責任範囲
- 物理的なデータセンターとインフラストラクチャ
- オペレーティングシステムと仮想化
- ネットワークとファイアウォール
- リージョンとアベイラビリティーゾーンの冗長化
- サービスレベル契約(SLA)の遵守
-
利用者の責任範囲
- ゲストOSのセキュリティ設定
- アプリケーションのセキュリティ
- データの暗号化とアクセス制御
- コンプライアンスの遵守
- ユーザーアカウントとアクセス権限の管理
3. GCP
GCPの責任共有モデルでは、以下の要素が明確に定義されている。
-
GCPの責任範囲
- 物理的なデータセンターとインフラストラクチャ
- オペレーティングシステムと仮想化
- ネットワークとファイアウォール
- リージョンとアベイラビリティーゾーンの冗長化
- サービスレベル契約(SLA)の遵守
-
利用者の責任範囲
- ゲストOSのセキュリティ設定
- アプリケーションのセキュリティ
- データの暗号化とアクセス制御
- コンプライアンスの遵守
- ユーザーアカウントとアクセス権限の管理
まとめ
責任共有モデルは、クラウドサービスにおけるセキュリティとコンプライアンスに関する責任範囲を明確にすることで、安全なクラウド環境を実現するために不可欠な考え方である。各クラウドサービス事業者によって責任範囲は異なるため、利用者は各モデルを理解し、自社の責任範囲を認識した上で、必要なセキュリティ対策を講じる必要がある。