ROMとは、コンピュータなどに内蔵されている読み出し専用のメモリのことである。
電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリの一種であり、主にファームウェアやOSなどの重要なプログラムを格納するために利用される。
ROMの役割
ROMは、コンピュータシステムにおいて、主に以下の3つの重要な役割を担っている。
1. システムの起動
コンピュータを起動する際に必要なプログラムは、ROMに格納されている。
電源を入れると、まずROMに格納されたBIOS(Basic Input/Output System)と呼ばれるプログラムが実行される。BIOSは、ハードウェアの初期化やOSの読み込みなど、システム起動に必要な一連の処理を行う。ROMにBIOSを格納することで、電源を切っても起動に必要なプログラムが失われることなく、常に安定した起動を実現できるのだ。
2. ファームウェアの提供
ファームウェアとは、ハードウェアの動作を制御するためのソフトウェアである。
例えば、プリンタであれば印刷データの処理やインクの制御、デジタルカメラであれば画像処理やレンズの制御などを実行するためのプログラムがファームウェアとしてROMに格納されている。
機器の動作に不可欠なこれらのプログラムをROMに格納することで、外部からの書き換えや消去を防ぎ、安定した動作を保証する役割を持つ。
3. 重要なデータの保管
ROMは、書き換えができないという特性を生かして、重要なデータの保管にも利用される。
例えば、組み込み機器のOSや、ゲーム機のゲームデータ、ネットワーク機器のMACアドレスなどがROMに格納される。
これらのデータは、書き換えられるとシステムの動作に支障をきたす可能性があるため、ROMに格納することで保護されているのだ。
ROMの種類
ROMは、書き込み方法や書き換えの可否によって、いくつかの種類に分類される。ここでは、代表的なROMの種類について解説する。
1. マスクROM
マスクROMは、製造時にデータが書き込まれるROMである。
工場でウェハに回路パターンを焼き付ける際に、同時にデータも書き込まれるため、ユーザーが書き込むことはできない。
一度製造されるとデータの変更ができないため、大量生産される製品や、データの書き換えが必要ない用途に適している。
例えば、家電製品やゲーム機などに組み込まれるプログラムを格納する際に利用されることが多い。
2. PROM (Programmable ROM)
PROMは、ユーザーが一度だけデータを書き込むことができるROMである。
書き込み専用の装置を用いて、ユーザーが任意のデータを書き込むことができる。
ただし、一度書き込んだデータは変更できない。
マスクROMに比べて少量生産に向いており、開発段階での試作品などに利用される。
3. EPROM (Erasable Programmable ROM)
EPROMは、紫外線を照射することでデータを消去し、再書き込みが可能なROMである。
PROMと同様に、ユーザーが任意のデータを書き込むことができる。
データを消去するには、EPROMに紫外線を照射する必要がある。
消去と書き込みには専用の装置が必要となる。
開発段階での試作品や、プログラムの更新が必要な機器などに利用される。
4. EEPROM (Electrically Erasable Programmable ROM)
EEPROMは、電気的にデータを消去し、再書き込みが可能なROMである。
EPROMとは異なり、紫外線照射ではなく、電圧をかけることでデータを消去できる。
消去と書き込みがEPROMよりも容易であり、繰り返し書き換えが可能である。
フラッシュメモリは、このEEPROMの一種である。
近年では、EEPROMは、EPROMに取って代わって広く利用されている。
5. フラッシュメモリ
フラッシュメモリは、EEPROMの一種であり、電気的にデータを消去し、再書き込みが可能な不揮発性メモリである。
EEPROMよりもさらに高速にデータの消去と書き込みが可能であり、大容量化も進んでいる。
USBメモリやSSDなど、様々な記憶装置に利用されている。
近年では、ROMの代わりにフラッシュメモリが使用されるケースが増えている。
ROMとフラッシュメモリの違い
ROMとフラッシュメモリは、どちらも不揮発性メモリであり、電源を切ってもデータが保持されるという共通点を持つ。しかし、両者にはいくつかの重要な違いがある。
1. 書き換えの可否
ROMは、基本的に書き換えができないメモリである。 一方、フラッシュメモリは、電気的にデータを消去し、再書き込みすることができる。 このため、フラッシュメモリは、ソフトウェアの更新やデータの追加・変更が必要な用途に適している。
2. データ保持期間
ROMは、データ保持期間が非常に長く、理論上は半永久的にデータを保持することができる。 一方、フラッシュメモリは、データ保持期間がROMに比べて短く、数年から数十年程度である。 また、書き換え回数に制限がある場合も多い。
3. アクセス速度
ROMは、フラッシュメモリに比べてアクセス速度が高速である。 これは、ROMがデータの読み出しに特化しているのに対し、フラッシュメモリは消去と書き込みの機能も備えているためである。
4. 価格
ROMは、フラッシュメモリに比べて価格が安い。 これは、ROMの製造プロセスがフラッシュメモリに比べて単純であるためである。
5. 容量
一般的に、ROMはフラッシュメモリに比べて容量が小さい。 これは、ROMが主にファームウェアやBIOSなど、比較的容量の小さいプログラムを格納するために利用されるためである。 一方、フラッシュメモリは、OSやアプリケーション、大容量のデータなどを格納するために利用されるため、大容量化が進んでいる。
6. 用途
ROMは、主にファームウェアやBIOSなど、システムの起動や基本的な動作に必要なプログラムを格納するために利用される。 一方、フラッシュメモリは、OSやアプリケーション、ユーザーデータなど、様々なデータを格納するために利用される。 例えば、USBメモリ、SSD、スマートフォン、デジタルカメラなど、幅広い機器にフラッシュメモリが搭載されている。
これらの違いをまとめると、以下のようになる。
まとめ
ROMは、コンピュータシステムにおいて重要な役割を担う読み出し専用のメモリである。
ROMは、それぞれ特性が異なるため、用途に応じて使い分けられる。
例えば、大量生産される製品にはマスクROMが、開発段階の試作品にはPROMやEPROMが、データの更新が必要な機器にはEEPROMやフラッシュメモリが適していると言えるだろう。