カオスエンジニアリングとは、本番稼働中のシステムに意図的に障害を発生させ、その影響を観測することで、システムの堅ろう性(レジリエンス)を向上させるエンジニアリング手法である。
カオスエンジニアリングの種類
カオスエンジニアリングには、大きく分けて以下の3つの種類がある。
アクティブカオスエンジニアリング
アクティブカオスエンジニアリングは、システムに意図的に障害を発生させる手法である。具体的には、サーバの停止やネットワークの断線、アプリケーションの停止など、さまざまな障害を発生させる。
アクティブカオスエンジニアリングは、システムの健全性や耐障害性の向上に効果的である。しかし、システムのダウンやデータの損失などのリスクがあるため、慎重に実施する必要がある。
パッシブカオスエンジニアリング
パッシブカオスエンジニアリングは、システムに発生した自然な障害を観測する手法である。具体的には、システムのログやメトリクスを監視し、異常を検知する。
パッシブカオスエンジニアリングは、アクティブカオスエンジニアリングに比べてリスクが低いため、比較的容易に実施できる。しかし、自然な障害を待つ必要があるため、障害の種類や発生タイミングをコントロールすることが難しい。
シミュレーションカオスエンジニアリング
シミュレーションカオスエンジニアリングは、システムに発生する可能性のある障害をシミュレーションする手法である。具体的には、ツールやサービスを利用し、システムに障害を発生させる。
シミュレーションカオスエンジニアリングは、アクティブカオスエンジニアリングやパッシブカオスエンジニアリングに比べてリスクが低いため、比較的安全に実施できる。しかし、シミュレーションの精度が低い場合、実際の障害と異なる結果が得られてしまう可能性がある。
カオスエンジニアリングのメリット
システムの弱点や脆弱性の発見
カオスエンジニアリングによって、システムに意図的に障害を発生させることで、システムの弱点や脆弱性を発見することができる。
例えば、あるシステムに、特定のサーバが停止すると、全体のシステムがダウンするという脆弱性があった場合、カオスエンジニアリングによってこの脆弱性を発見し、対策を講じることで、システムのダウンを防止することができる。
障害時の対応手順や運用プロセスの改善
カオスエンジニアリングによって、障害時の対応手順や運用プロセスを検証することで、改善点を洗い出し、運用効率化を図ることができる。
例えば、あるシステムの障害時に、対応が遅れてユーザーに影響が出たという場合、カオスエンジニアリングによってこの課題を洗い出し、対応手順や運用プロセスを改善することで、障害時の対応を迅速化することができる。
新たな運用サービスの開発
カオスエンジニアリングによって、障害時の影響を検証することで、新たな運用サービスを開発することができる。
例えば、あるシステムの障害時に、自動的に復旧するサービスを開発することで、障害による影響を最小限に抑えることができる。
エンジニアのスキル向上
カオスエンジニアリングによって、システムの障害対応スキルを向上させることができる。
カオスエンジニアリングでは、意図的に障害を発生させるため、エンジニアは、さまざまな障害の発生状況や影響範囲を経験することができる。これにより、エンジニアは、障害が発生した際に迅速かつ適切に対応するスキルを身につけることができる。
カオスエンジニアリングのツール
カオスエンジニアリングのツールは、以下の3つの種類に分類できる。
障害や異常の発生を自動化するツール
障害や異常の発生を自動化するツールは、システムに障害や異常を発生させるための機能を提供する。代表的なツールとしては、以下のようなものがある。
- Chaos Monkey
- Gremlin
- Litmus Chaos
Chaos Monkeyは、Netflixが開発・提供しているツールである。ランダムにサーバを停止するなどの障害を発生させることができる。
Gremlinは、Google Cloud Platformが提供しているツールである。さまざまな種類の障害を発生させることができる。
Litmus Chaosは、IBMが提供しているツールである。Kubernetes環境で障害を発生させることができる。
障害や異常の影響を可視化するツール
障害や異常の影響を可視化するツールは、障害や異常が発生した場合に、システムの状態やパフォーマンスを可視化する機能を提供する。代表的なツールとしては、以下のようなものがある。
- Honeycomb
- Datadog
- New Relic
Honeycombは、障害や異常が発生した際に、システムのログやメトリクスを可視化するツールである。
Datadogは、障害や異常が発生した際に、システムのログやメトリクス、アラートを可視化するツールである。
New Relicは、障害や異常が発生した際に、システムのログやメトリクス、パフォーマンスを可視化するツールである。
障害や異常の復旧を支援するツール
障害や異常の復旧を支援するツールは、障害や異常が発生した場合に、システムの復旧を支援する機能を提供する。代表的なツールとしては、以下のようなものがある。
- Terraform
- Ansible
- Chef
Terraformは、クラウドインフラを自動的に構築・管理するためのツールである。障害や異常が発生した場合に、自動的にシステムを復旧させることができる。
Ansibleは、サーバやネットワークなどのインフラを自動的に構築・管理するためのツールである。障害や異常が発生した場合に、自動的にシステムを復旧させることができる。
Chefは、サーバやネットワークなどのインフラを自動的に構築・管理するためのツールである。障害や異常が発生した場合に、自動的にシステムを復旧させることができる。
カオスエンジニアリングの事例
カオスエンジニアリングは、さまざまな企業や組織で実施されており、以下のような事例がある。
Netflix
Netflixは、カオスエンジニアリングを積極的に活用している企業の1つである。Netflixでは、Chaos Monkeyと呼ばれるツールを利用して、ランダムにサーバを停止するなどの障害を発生させている。Chaos Monkeyによって、Netflixのシステムは、サーバの停止やネットワークの障害などのさまざまな障害に耐えることができるようになった。
Google Cloud Platform
Google Cloud Platformでは、Gremlinと呼ばれるツールを利用して、さまざまな種類の障害を発生させることができる。Gremlinは、ネットワークの障害や、アプリケーションの異常など、さまざまな障害を発生させることができるため、Google Cloud Platformを利用する企業や組織は、自社のシステムがこれらの障害に耐えることができるかどうかを検証することができる。
IBM
IBMは、Litmus Chaosと呼ばれるツールを利用して、Kubernetes環境で障害を発生させることができる。Litmus Chaosは、Kubernetes環境で発生する可能性のあるさまざまな障害を発生させることができるため、Kubernetesを利用する企業や組織は、自社のシステムがこれらの障害に耐えることができるかどうかを検証することができる。
カオスエンジニアリングのデメリット
カオスエンジニアリングは、システムに意図的に障害を発生させる手法である。そのため、以下のデメリットがある。
システムのダウンやデータの損失などのリスク
カオスエンジニアリングによって、システムのダウンやデータの損失などのリスクが生じる可能性がある。そのため、カオスエンジニアリングを実施する際には、事前に十分な検証と準備を行う必要がある。
エンジニアのスキルや経験が必要
カオスエンジニアリングを効果的に実施するためには、エンジニアのスキルや経験が必要である。そのため、カオスエンジニアリングを実施する際には、十分なスキルや経験を持つエンジニアを配置する必要がある。
運用コストの増加
カオスエンジニアリングを実施するためには、新たなツールやサービスの導入が必要になる場合がある。そのため、カオスエンジニアリングを実施する際には、運用コストの増加が想定される。
社内外からの理解が必要
カオスエンジニアリングは、システムに意図的に障害を発生させる手法であるため、社内外からの理解を得ることが難しい場合がある。そのため、カオスエンジニアリングを実施する際には、事前に十分な説明と周知を行う必要がある。
まとめ
カオスエンジニアリングは、システムの健全性や耐障害性の向上、システムの運用効率化、新たな運用サービスの開発、エンジニアのスキル向上など、さまざまなメリットがある一方で、システムのダウンやデータの損失などのリスク、エンジニアのスキルや経験が必要、運用コストの増加、社内外からの理解が必要などのデメリットもある。カオスエンジニアリングを実施する際には、これらのデメリットを十分に理解した上で、適切な対策を講じることが重要である。
近年、クラウドやコンテナなどの技術の普及により、システムの複雑化と規模の拡大が進んでいる。そのため、障害発生時の影響を予測し、迅速かつ適切に対応することが重要となっている。
カオスエンジニアリングは、システムの堅ろう性を向上させるための有効な手法であり、今後もその普及が進んでいくと考えられる。