EPROMは、Erasable Programmable Read Only Memoryの略で、日本語では「消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ」と呼ばれる。
これは、ユーザーがデータを書き込み、必要に応じて消去できる不揮発性メモリの一種である。一度書き込んだデータは電源を切っても保持されるが、紫外線照射によって消去し、再書き込みが可能になるという特徴を持つ。
EPROMの仕組み
EPROMは、フローティングゲートMOSFETと呼ばれる特殊なトランジスタを記憶素子として用いている。このフローティングゲートMOSFETの構造と動作原理を理解することで、EPROMの仕組みをより深く理解することができる。
フローティングゲートMOSFETの構造
フローティングゲートMOSFETは、通常のMOSFETと異なり、ゲート電極が絶縁体で完全に囲まれた構造をしている。このゲート電極は「フローティングゲート」と呼ばれ、外部から電気的に接続されていない。フローティングゲートは、電荷を蓄積することができるコンデンサのような役割を果たす。
データの書き込み
EPROMにデータを書き込むには、フローティングゲートに電荷を注入する必要がある。これは、ドレインに高電圧を印加することで、チャネルからフローティングゲートへ電子を注入することによって行われる。フローティングゲートに電子が蓄積されると、トランジスタのしきい値電圧が変化し、データの「1」が記憶される。
データの読み出し
EPROMからデータを読み出すには、ゲート電極に電圧を印加し、ドレイン電流が流れるかどうかを確認する。フローティングゲートに電荷が蓄積されている場合はしきい値電圧が高くなり、ドレイン電流は流れない。これをデータの「1」として読み出す。一方、フローティングゲートに電荷が蓄積されていない場合はしきい値電圧が低く、ドレイン電流が流れる。これをデータの「0」として読み出す。
データの消去
EPROMのデータは、紫外線を照射することで消去することができる。紫外線は、フローティングゲートに蓄積された電子にエネルギーを与え、絶縁体を通り抜けてゲート酸化膜へ放出させる。これにより、フローティングゲートの電荷が失われ、トランジスタのしきい値電圧が初期状態に戻る。つまり、データが「0」にリセットされる。
EPROMチップには、紫外線照射のための窓が設けられている。この窓から紫外線を照射することで、チップ全体のデータを一括して消去することができる。
EPROMは、このようにフローティングゲートMOSFETの電荷の蓄積と放出を利用することで、不揮発性メモリとしての機能を実現している。
EPROMの種類
EPROMは、消去方法や書き込み回数によっていくつかの種類に分けられる。代表的なEPROMの種類と、それぞれの特徴について解説する。
UV-EPROM
UV-EPROMは、紫外線を使ってデータを消去するEPROMである。EPROMといえば、一般的にこのUV-EPROMを指すことが多い。チップ上に紫外線を照射するための石英ガラスの窓が設けられており、この窓から紫外線を照射することで、フローティングゲートに蓄積された電荷を放出させ、データを消去する。
UV-EPROMは、消去に専用の紫外線照射装置が必要で、消去に数分から数十分の時間がかかるというデメリットがある。しかし、EEPROMやフラッシュメモリに比べてデータ保持の信頼性が高く、書き換え回数も1,000回程度と比較的多い。そのため、少量生産の機器や書き換え頻度が少ない機器、信頼性が求められる機器などに利用されている。
OTP EPROM (One-Time Programmable EPROM)
OTP EPROMは、1回だけ書き込み可能なEPROMである。書き込み後はデータを消去することができない。UV-EPROMと同様にフローティングゲートMOSFETを使用しているが、紫外線照射用の窓が設けられていないため、一度書き込んだデータを消去することができない。
OTP EPROMは、UV-EPROMに比べて製造コストが低く、セキュリティ性が高いという特徴がある。そのため、ファームウェアのバージョン管理や、セキュリティキーの格納などに利用されている。
EEPROM (Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)
EEPROMは、電気的にデータを消去できるEPROMである。UV-EPROMのように紫外線照射による消去が不要で、電圧を印加するだけでデータを消去できる。また、UV-EPROMはチップ全体を一度に消去する必要があるが、EEPROMは部分的にデータを消去することができる。
EEPROMは、UV-EPROMに比べて消去が容易で、書き換え回数も多い。しかし、UV-EPROMに比べてデータ保持の信頼性が低く、コストも高い。フラッシュメモリは、このEEPROMをさらに進化させたものであり、現在ではEEPROMよりもフラッシュメモリの方が広く使われている。
上記の他に、EPROMの一種として、フラッシュメモリも挙げられる。フラッシュメモリは、EEPROMと同様に電気的にデータを消去できる不揮発性メモリである。EEPROMとの違いは、データを消去する単位がブロック単位であること、書き込み速度が高速であること、記憶容量が大きいことなどである。フラッシュメモリは、現在最も広く使われている不揮発性メモリであり、USBメモリ、SSD、スマートフォン、デジタルカメラなど、様々な機器に利用されている。
EPROMのメリット
EPROMは、不揮発性メモリとして、いくつかの重要なメリットを持つ。特に、少量生産の製品や、書き換え頻度が低い用途では、EEPROMやフラッシュメモリよりも有利な点が多い。主なメリットは以下の通りだ。
不揮発性
EPROMは、電源を切ってもデータが保持される不揮発性メモリである。これは、RAMのような揮発性メモリと比較して大きなメリットだ。揮発性メモリは、電源を切るとデータが失われてしまうため、データを永続的に保存するには、常に電源を供給し続ける必要がある。一方、EPROMは電源を切ってもデータが保持されるため、電源の供給が不安定な環境でも安心して使用できる。
消去・再書き込み可能
EPROMは、紫外線照射によってデータを消去し、再書き込みすることが可能である。これは、マスクROMやPROMのような書き込み専用メモリと比較して大きなメリットだ。書き込み専用メモリは、一度書き込んだデータは変更することができない。そのため、プログラムにバグがあった場合や、仕様変更があった場合、チップを交換する必要がある。一方、EPROMはデータを消去して再書き込みすることができるため、プログラムの修正やアップデートに柔軟に対応できる。
比較的低コスト
EPROMは、マスクROMに比べて製造コストが低い。マスクROMは、製造時にデータが固定されるため、少量生産の場合、1個あたりのコストが高くなってしまう。一方、EPROMは、ユーザーがデータを書き込むことができるため、少量生産の場合でもコストを抑えることができる。
データ保持の信頼性が高い
EPROMは、EEPROMやフラッシュメモリに比べて、データ保持の信頼性が高い。これは、フローティングゲートに蓄積された電荷が、外部からの影響を受けにくい構造になっているためである。EEPROMやフラッシュメモリは、データ保持期間が10年程度といわれているが、EPROMはそれ以上の期間、データを保持することができる。
これらのメリットにより、EPROMは、依然として特定の用途で重要な役割を果たしている。
EPROMのデメリット
EPROMは、多くのメリットを持つ一方で、いくつかのデメリットも存在する。これらのデメリットは、EEPROMやフラッシュメモリといった、より新しい不揮発性メモリが登場したことで、EPROMの利用を制限する要因となっている。
消去に時間がかかる
EPROMの消去は、紫外線照射によって行われる。この紫外線照射には、一般的に数分から数十分の時間がかかる。EEPROMやフラッシュメモリのように電気的に消去できるメモリと比較すると、非常に時間がかかることがわかる。これは、開発やデバッグの際に、プログラムの書き換えに時間がかかり、作業効率を低下させる可能性がある。
書き込みに高電圧が必要
EPROMへのデータ書き込みには、通常のデジタル回路よりも高い電圧が必要となる。これは、フローティングゲートに電子を注入するために、高いエネルギーが必要となるためである。高電圧を印加する必要があるということは、専用の書き込み装置が必要となる場合があり、システム設計の制約となる可能性がある。
EEPROMやフラッシュメモリに比べて書き換え回数が少ない
EPROMの書き換え回数は、一般的に1,000回程度である。これは、EEPROMやフラッシュメモリの10万回~100万回と比較すると、非常に少ない回数である。書き換え回数に限りがあるということは、頻繁にデータの書き換えを行う用途には適していないということになる。
紫外線照射による消去が必要
EPROMの消去には、紫外線照射が必要となる。そのため、専用の紫外線照射装置が必要となる。この装置は、比較的高価であり、取り扱いにも注意が必要である。また、紫外線は人体に有害であるため、安全に配慮した環境で作業を行う必要がある。
チップ単価が高い
EPROMは、EEPROMやフラッシュメモリに比べて、チップ単価が高い傾向がある。これは、EPROMの製造プロセスが複雑であるためである。特に、少量生産の場合、EEPROMやフラッシュメモリよりもコストが高くなる可能性がある。
これらのデメリットを考慮すると、EPROMは、全ての用途に最適なメモリとは言えない。しかし、書き換え頻度が少なく、データ保持の信頼性が求められる用途では、依然として有効な選択肢となり得る。
EPROMと他のメモリとの比較
EPROMは、他のメモリと比較して以下のような特徴を持つ。
メモリの種類 | 不揮発性 | 消去・再書き込み | 書き込み速度 | 消去速度 | コスト | データ保持の信頼性 |
---|---|---|---|---|---|---|
マスクROM | ○ | × | – | – | 低 | 高 |
PROM | ○ | × | – | – | 低 | 高 |
EPROM | ○ | ○ | 遅 | 遅 | 中 | 高 |
EEPROM | ○ | ○ | 中 | 中 | 高 | 中 |
フラッシュメモリ | ○ | ○ | 高速 | 高速 | 高 | 中 |
まとめ
EPROMは、消去可能な読み出し専用メモリであり、かつてはマイコンのプログラムメモリや、各種電子機器のファームウェアなどを格納するために広く使われていた。EEPROMやフラッシュメモリなどのより高速で使いやすい不揮発性メモリが登場した現在では、EPROMの用途は限られているものの、少量生産の機器や書き換え頻度が少ない機器、信頼性が求められる機器などでは、依然として利用されている。
EPROMは、不揮発性、消去・再書き込み可能、比較的低コスト、データ保持の信頼性が高いといったメリットを持つ一方、消去に時間がかかる、書き込みに高電圧が必要、書き換え回数が少ない、紫外線照射による消去が必要といったデメリットも持つ。そのため、EPROMを使用する際には、これらのメリットとデメリットを考慮する必要がある。