EGPとは、Exterior Gateway Protocolの略で、異なるネットワーク間で経路情報を交換するためのプロトコルである。
インターネットの広大な世界を支える重要な役割を担っている。
EGPの概要
EGPは、自律システム(AS)と呼ばれるネットワークの集合体同士を繋ぐ役割を果たす。ASとは、単一の組織やエンティティによって管理されるネットワークのグループである。例えば、ISP(インターネットサービスプロバイダ)や大企業などが独自のASを持っている。
EGPは、これらのAS間で経路情報を交換することで、インターネット全体でのデータ通信を可能にする。具体的には、各ASが持つネットワークの到達可能性情報(どのネットワークに到達できるか)を他のASに伝達する。これにより、あるASから送信されたデータが、複数のASを経由して目的のASに到達できるようになる。
EGPの仕組み
EGPは、自律システム(AS)間の経路情報を交換するためのプロトコルである。その仕組みは、以下の3つの主要な要素から成り立っている。
1. ピアリング
EGPは、隣接するAS間でピアリングと呼ばれる接続を確立する。ピアリングは、物理的な接続または仮想的な接続によって実現され、EGPメッセージの送受信を行うための通信路となる。ピアリングは、AS間の信頼関係に基づいて確立され、通常、契約や合意によって管理される。
2. EGPメッセージ
EGPメッセージは、経路情報を交換するためのデータパケットである。EGPメッセージには、以下の情報が含まれる。
- 到達可能性情報: あるASから他のASへの到達可能性を示す情報。具体的には、どのネットワークに到達できるか、そのネットワークへの距離(ホップ数)などが含まれる。
- 経路属性情報: 経路の品質に関する情報。例えば、帯域幅、遅延、信頼性などが含まれる。これにより、最適な経路を選択することが可能になる。
EGPメッセージは、ピアリングを介して隣接するAS間で送受信される。各ASは、受信したEGPメッセージに基づいて自身のルーティングテーブルを更新し、最適な経路を選択する。
3. 距離ベクトル型ルーティングアルゴリズム
EGPは、距離ベクトル型ルーティングアルゴリズムを採用している。これは、各ASが自身の持つ経路情報を隣接するASに伝達し、それを受信したASがさらに自身の経路情報と組み合わせて他のASに伝達するというプロセスを繰り返すことで、ネットワーク全体の経路情報を伝播させるアルゴリズムである。
距離ベクトル型ルーティングアルゴリズムは、シンプルで実装が容易であるという利点があるが、大規模なネットワークでは収束が遅く、ルーティングループが発生する可能性があるという欠点もある。
EGPの仕組みは、これらの要素が相互に連携することで実現される。ピアリングを通じてEGPメッセージを交換し、距離ベクトル型ルーティングアルゴリズムによって経路情報を伝播させることで、インターネット全体でのデータ通信を可能にしている。
EGPのメリット
シンプルさと実装の容易さ
EGPは、BGPと比較して、プロトコル設計がシンプルである。これは、初期のインターネット環境において、限られた計算資源と帯域幅の中で効率的に動作させるために重要であった。シンプルな設計は、実装の容易さにもつながり、多くのネットワーク機器ベンダーがEGPをサポートすることができた。
自律システム間のルーティングの確立
EGPは、自律システム(AS)間のルーティングを確立するための基本的な機能を提供した。これは、異なるネットワーク管理者がそれぞれ独立してネットワークを運用できるインターネットの分散型アーキテクチャを実現するために不可欠な要素であった。EGPは、AS間の経路情報を交換し、自律システム間の到達可能性を確保することで、インターネットの相互接続性を高めた。
EGPのデメリット
EGPは、初期のインターネットにおいて重要な役割を果たしたが、いくつかのデメリットにより、BGPに取って代わられた。以下にEGPの主なデメリットを挙げる。
スケーラビリティの低さ
EGPは、距離ベクトル型ルーティングアルゴリズムを採用している。これは、各ルーターが自身のルーティングテーブルを隣接ルーターと交換し、ネットワーク全体の経路情報を徐々に伝播させる仕組みである。しかし、ネットワーク規模が大きくなるにつれて、このプロセスは複雑化し、ルーティング情報の収束に時間がかかるようになる。さらに、ルーティングループと呼ばれる、パケットがネットワーク内を無限に循環してしまう問題が発生する可能性も高くなる。
セキュリティの脆弱性
EGPは、経路情報の送信元を認証するメカニズムを持たないなど、セキュリティ上の対策が不十分である。そのため、悪意のある攻撃者が偽の経路情報をネットワークに注入し、トラフィックを乗っ取ったり、サービス妨害攻撃(DoS攻撃)を仕掛けたりする可能性がある。
ポリシー制御機能の限定性
EGPは、シンプルなルーティングプロトコルであり、ネットワーク管理者がトラフィックを制御したり、経路を優先したりするための機能が限られている。そのため、トラフィックエンジニアリングやセキュリティ対策などの高度なネットワーク運用を行うことは難しい。
収束の遅さ
EGPは、Keep Aliveと呼ばれる通信を使用してピアリング先の生存確認を行うが、障害発生時の検出が遅く、経路情報の収束に時間がかかる。ネットワーク障害が発生した場合、EGPは、障害を検出し、新しい経路情報を伝播させるまでに時間がかかるため、ネットワークの復旧が遅れる可能性がある。
これらのデメリットにより、EGPは、大規模で複雑なインターネットの運用には不向きであると判断され、BGPに置き換えられていった。BGPは、経路集約やセキュリティ対策、ポリシー制御機能など、EGPのデメリットを克服した、より高度なルーティングプロトコルである。
EGPとBGPの違い
EGPとBGPは、どちらも自律システム(AS)間のルーティングプロトコルであるが、いくつかの重要な違いがある。これらの違いは、インターネットの進化とスケーラビリティ、セキュリティ、およびポリシー制御の必要性に対応するために生まれたものである。
スケーラビリティ
EGPは、初期のインターネットにおいて有効であったが、ネットワークの規模が拡大するにつれて、その限界が明らかになった。EGPは、すべてのルーターがネットワーク全体のトポロジを把握する必要があるため、大規模なネットワークではルーティングテーブルが肥大化し、更新処理に時間がかかるという問題があった。
一方、BGPは、経路集約と呼ばれる技術を採用することで、この問題を解決した。経路集約は、複数の経路をまとめて一つの経路として表現することで、ルーティングテーブルのサイズを削減し、更新処理を効率化する。これにより、BGPは、大規模なインターネット環境でも効率的にルーティング情報を管理できるようになった。
セキュリティ
EGPは、セキュリティに関する考慮が不十分であった。例えば、EGPでは、経路情報の送信元を認証するメカニズムがなかったため、不正な経路情報がネットワークに注入される可能性があった。
BGPは、EGPのセキュリティ上の問題点を克服するために、いくつかのセキュリティ対策を導入した。例えば、BGPでは、経路情報の送信元を認証するメカニズムや、不正な経路情報を検出・防止するメカニズムが組み込まれている。これにより、BGPは、より安全なルーティング環境を提供できるようになった。
ポリシー
EGPは、シンプルなルーティングプロトコルであり、ポリシー制御の機能は限られていた。一方、BGPは、柔軟なポリシー設定を可能にする機能を備えている。これにより、ネットワーク管理者は、特定のASからのトラフィックを制御したり、特定の経路を優先したりするなど、ネットワークの運用ポリシーに合わせてルーティングを制御できる。
BGPのポリシー制御機能は、インターネットにおけるトラフィックエンジニアリングやセキュリティ対策などに不可欠な要素となっている。ネットワーク管理者は、BGPのポリシー機能を活用することで、ネットワークの効率性、信頼性、およびセキュリティを向上させることができる。
EGPは、初期のインターネットにおいて重要な役割を果たしたが、現状では大規模化、セキュリティ強化、およびポリシー制御が可能なBGPが使用されている。
まとめ
EGPは、インターネット初期の主要なルーティングプロトコルであり、異なるネットワーク間での経路情報の交換を可能にすることで、インターネットの発展に貢献した。現在では、BGPにその役割を譲っているが、EGPはインターネットの歴史において重要な役割を果たしたプロトコルである。