DBSCANとは、機械学習における代表的なクラスタリング手法の一つであり、データが密集している領域を自動的に見つけ出すアルゴリズムである。事前にクラスタ数を決めることなく、またノイズ点(外れ値)をしっかりと切り分けながらクラスタを形成できる点が特徴的である。
DBSCANの原理
DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)は、密度に基づくクラスタリング手法の中でも特に有名なアルゴリズムである。データ分布が偏っていたり、クラスタ数がわからない場合でも、自動的にクラスタを作成できる利点がある。以下のようなポイントがDBSCANの原理を理解する上で重要となる。
- 密度の考え方
データ点がある程度の近傍範囲に集中しているかどうかを基準にクラスタを形成する。単に「点同士の距離が近いかどうか」だけではなく、「ある半径内にどれだけの点が含まれるか」を基準にする仕組みだ。 - K-meansとの比較
K-meansはあらかじめクラスタ数(K)を指定し、重心を反復的に更新してクラスタを分割する手法である。対してDBSCANは、クラスタ数を事前に決めずにデータの密度から自動的にクラスタを見つける。こうした性質上、K-meansが苦手とするノイズの多いデータや非線形的なクラスタ構造にも柔軟に対応できる。 - ノイズ点の明確化
密度が小さい領域に存在する点はクラスタに属さないノイズ点(Noise Point)と見なされる。多くの実データに含まれる外れ値を自然に切り分けることができる点が、DBSCANが実運用で好まれる理由の一つである。
DBSCANのアルゴリズム
DBSCANのアルゴリズムは2つのパラメータを基盤に動作する。一つは近傍半径ε(イプシロン)、もう一つは最小近傍点数MinPts(ミンポイント)である。これらを用いたクラスタリング手順は以下の通りだ。
- Step1: 初期設定
- すべての点を「未訪問(UNVISITED)」としてマークする。
- ε(点同士を近傍とみなす半径)とMinPts(コア点と認めるための最低点数)を設定する。
- Step2: 点の選択
- 任意の未訪問の点Pを選択し、訪問済みにマークする。
- Pの周囲を半径ε以内で探索し、近傍点集合N(P)を求める。
- Step3: コア点の判定
- N(P)がMinPts以上ならPは「コア点(Core Point)」である。
- Pがコア点ならば、N(P)のすべての点(まだクラスタに属していないもの)を同じクラスタに含める。そして、それらの点に対しても近傍探索を再帰的に行い、クラスタを拡大する。
- Step4: 境界点の取り扱い
- コア点にならない場合でも、あるコア点の近傍内に含まれる点は「境界点(Border Point)」とみなせる。境界点は、そのコア点に属するクラスタとして取り扱うことが多い。
- Step5: ノイズ点の扱い
- どのクラスタにも含まれない点は「ノイズ点(Noise Point)」である。これらの点はアウトライヤーとして無視するか、のちの工程で異常検知などに活用する場合がある。
- Step6: 全点の処理完了
- すべての点が訪問済みになるまでStep2以降を繰り返す。
- 結果として、密度を基準に複数のクラスタとノイズ点が明確に区別される。
このアルゴリズムによって、クラスタ数を明示せずに自動的に複数のクラスタが形成される。特に、K-meansのような手法では捉えにくい、非線形で複雑な形状のクラスタを見つけるのにも向いている。
DBSCANのメリット
DBSCANは他のクラスタリング手法と比べて、いくつか明確な利点がある。以下の点が特に挙げられるだろう。
- クラスタ数を事前に指定しなくてよい
K-meansなどはクラスタ数Kを決めてから手法を適用する必要がある。しかし、DBSCANではεとMinPtsを設定するだけでクラスタ数は自動的に決まるため、実データに合わせたクラスタ数が自然に形成される。 - ノイズ点や外れ値を扱いやすい
DBSCANはデータの密度が極端に低い点をノイズとして排除する。このため、外れ値を含む解析でも高い耐性を示す。外れ値が多いデータセットを扱う際には大きな強みとなる。 - 非線形なクラスタ形状を捉えやすい
球状や正規分布前提ではない、複雑な分布にもDBSCANは対応できる。クラスタが湾曲していたり、複数の細長い形状をしていたりしても、密度が連続している領域であれば同じクラスタとして検出可能だ。 - 実装が比較的容易
アルゴリズム自体は単純であり、コア点・境界点・ノイズ点を定義して再帰的に探索する流れは理解しやすい。ライブラリにも多く実装されているので、PythonやRなどの環境で気軽に利用できる場合が多い。
DBSCANのデメリット
DBSCANには便利な点が多い反面、いくつかの課題や弱点も存在する。以下の箇条書きに挙げるようなポイントを理解した上で運用することが望ましい。
- パラメータのチューニングが難しい
- ε(近傍半径)をどう設定するかがデータセットに依存する。小さすぎると必要以上に細かくクラスタが分割され、大きすぎると1つの大きなクラスタになってしまう危険がある。
- MinPtsも同様に、コア点として認めるための基準が合わないと、意図したクラスタ形成ができない。
- 高次元データへの適用が困難
- 次元が高いと「次元の呪い」によって距離指標があまり意味を持たなくなる。
- DBSCANは近傍探索が前提の手法であるため、高次元空間ではノイズが急増したり、ほとんどの点が互いに遠くなったりしやすい。
- PCAやt-SNE、UMAPなどで次元圧縮を施してからDBSCANを適用するのが一般的なアプローチだ。
- 密度が大きく異なる領域に弱い
- クラスタごとに分散や密度が大きく異なるデータセットでは、単一のεやMinPtsでは十分に対応できない場合がある。
- ある領域ではうまくクラスタを形成できても、別の領域ではすべてノイズに飛ばされる可能性がある。
- 計算量の大きさ
- すべての点に対して近傍探索を行うため、単純実装ではO(n^2)となる。
- 工夫としては、kd-treeやBall treeなどの空間探索データ構造を使って探索を高速化する方法がある。
- 非常に大規模なデータセットに対しては、サンプリングや近似アルゴリズムを併用するなどの検討が必要となる。
まとめ
DBSCANは、密度ベースのクラスタリングを代表する手法であり、外れ値やノイズが多い実データに対して有効に機能する。クラスタ数を事前に指定しなくてよい点や複雑な形状のクラスタにも対応できる点は、実務上での大きな利点である。ただし、パラメータのチューニングや高次元データへの適用、そしてデータ分布が大きく異なるケースでは注意が必要となる。
- 運用上のポイント
- データのスケールや次元を把握し、可能であれば標準化や次元削減を行ってからDBSCANを試す。
- εとMinPtsの設定を複数回試しながら最適値を探る。可視化ツールや評価指標を用いることで、効率的にパラメータの検討ができる。
- ノイズ点の扱い方を事前に考える。異常検知が主目的なら、むしろノイズ点を積極的に抽出する利用法も考えられる。
- どんな場面で使われるか
総じて、DBSCANをマスターすることはクラスタリングの理解を深める上で大いに役立つ。クラスタ数がわからないデータセットやノイズの多い環境下で、高い柔軟性を持って解析を進めることができるからだ。クラスタリング手法はK-meansや階層的クラスタリングをはじめ多様な選択肢があるが、その中でもDBSCANは独自の強みを持つ。パラメータチューニングや可視化を積極的に活用し、データの性質をよく理解したうえでDBSCANを活かしていきたいところである。
DBSCANを適切に使いこなし、ノイズ点や外れ値を有用な情報として取り出すことができれば、より深いデータの洞察が得られるだろう。非線形性や外れ値への強さを武器に、多種多様なデータ解析の場面でDBSCANを試してみる価値は大いにある。クラスタリング手法のレパートリーを広げる一歩として、ぜひDBSCANを選択肢に加えてみるとよいだろう。