クラスタリングとは、大量のデータを類似性に基づいてグループ分けする技術である。教師なし学習の代表的な手法であり、データの本質的な構造を明らかにするために用いられる。
クラスタリングの仕組み
クラスタリングの基本的な仕組みは、データポイント間の類似度を測り、その類似度が高いデータ同士を同じグループ(クラスタ)にまとめることにある。ここで重要なのは、「類似度」をどのように定義するか、そしてどのようにしてデータをクラスタに割り当てるかという点である。
類似度の測定には、ユークリッド距離、マンハッタン距離、コサイン類似度など、様々な距離尺度や類似度指標が用いられる。どの指標を用いるかは、データの特性や目的によって決定される。例えば、データの値の差が重要な場合はユークリッド距離が適しているし、ベクトルの方向性が重要な場合はコサイン類似度が適している。
クラスタへの割り当ては、一度にすべてのデータを割り当てるのではなく、段階的に行うことが多い。初期状態では、各データポイントがそれぞれ単独のクラスタであるとし、そこから類似度の高いデータポイント同士をまとめていく、あるいは、ランダムに選んだデータポイントをクラスタの中心点として、他のデータをその中心点に割り当てていくというように、様々なアルゴリズムが存在する。
クラスタリングの過程は、最適化問題として捉えることもできる。つまり、クラスタ内分散を最小化し、クラスタ間分散を最大化するように、クラスタを形成することが目標となる。この最適化の過程で、どのクラスタリング手法を採用するかが大きく影響する。
クラスタリングの手法
クラスタリングを実行する際には、様々な手法が用いられる。その選択は、データの性質、目的、計算資源などに応じて慎重に決定する必要がある。以下に、代表的な手法を詳述する。
k-means法
k-means法は、最も広く利用されている非階層的クラスタリング手法の一つである。そのアルゴリズムはシンプルであり、実装も容易であるため、多くのデータ分析の場面で活用されている。
k-means法の核心は、データポイントをk個のクラスタに分割することにある。初期段階では、ランダムにk個のクラスタ中心をデータ空間上に配置する。次に、各データポイントを最も近いクラスタ中心に割り当てる。この割り当ての結果、各クラスタのデータポイントの平均位置を新たなクラスタ中心とする。この割り当てと中心の更新を、クラスタ中心の位置が変動しなくなるまで、つまり収束するまで繰り返す。
k-means法のメリットは、そのシンプルさと計算効率の高さにある。大規模なデータセットでも比較的短時間で処理できるため、リアルタイムでの分析にも利用可能である。しかし、デメリットも存在する。クラスタ数が事前に決定されている必要がある点や、初期クラスタ中心の配置に結果が大きく左右される点、また、クラスタの形状が球形に近い場合にしか適用できない場合がある点などが挙げられる。
これらのデメリットを緩和するために、k-means++のような初期クラスタ中心の選定方法を改善したアルゴリズムや、複数の初期値でk-means法を実行し、最良の結果を採用するなどの工夫が用いられることがある。
階層的クラスタリング
階層的クラスタリングは、データポイントを階層的な構造で捉えるアプローチである。この手法は、樹形図(デンドログラム)として結果を可視化できるため、データの構造を直感的に理解しやすいという利点がある。
階層的クラスタリングは、凝集型(ボトムアップ)と分割型(トップダウン)の2つの主要なアプローチに分類される。凝集型クラスタリングは、各データポイントを個別のクラスタとして開始し、最も類似したクラスタを段階的に結合していく。分割型クラスタリングは、すべてのデータポイントを一つのクラスタとして開始し、最も異質なクラスタを段階的に分割していく。
凝集型クラスタリングにおいて、クラスタ間の類似度を測る方法は、最短距離法(シングルリンク)、最長距離法(コンプリートリンク)、群平均法、ウォード法など様々である。最短距離法は、クラスタ間で最も近い距離にあるデータポイント間の距離をクラスタ間の距離とする。最長距離法は、クラスタ間で最も遠い距離にあるデータポイント間の距離をクラスタ間の距離とする。群平均法は、クラスタ内のすべてのデータポイント間の平均距離をクラスタ間の距離とする。ウォード法は、クラスタ内の分散を最小化するようにクラスタを結合する。
階層的クラスタリングの利点は、クラスタの階層構造を理解できることや、クラスタ数を事前に決定する必要がないことである。一方、計算コストが大きくなりやすいことや、一度形成されたクラスタが後から変更されにくいという欠点も存在する。
DBSCAN
DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)は、密度ベースのクラスタリング手法であり、データ密度の高い領域をクラスタとして捉える。この手法は、クラスタの形状が任意である場合や、外れ値が含まれるデータセットに対して有効である。
DBSCANは、2つのパラメータ、すなわち、ε(イプシロン)とminPtsを必要とする。εはデータポイントの近傍を定義する半径を表し、minPtsはクラスタを形成するために必要な最小のデータポイント数を表す。DBSCANは、データポイントをコアポイント、境界ポイント、外れ値の3つに分類する。コアポイントとは、その半径ε内にminPts以上のデータポイントを持つポイントである。境界ポイントとは、コアポイントの近傍にあり、自身はコアポイントではないポイントである。外れ値とは、コアポイントでも境界ポイントでもないポイントである。
DBSCANは、最初にランダムなデータポイントを選択し、それがコアポイントであるかどうかを確認する。コアポイントである場合は、その近傍のデータポイントを探索し、そのデータポイントもコアポイントであれば、それらを同一のクラスタにまとめる。このプロセスを、クラスタが成長しなくなるまで繰り返す。
DBSCANの利点は、クラスタの形状に制限がないこと、外れ値の影響を受けにくいこと、クラスタ数を事前に決める必要がないことである。一方、パラメータ調整が難しいことや、データ密度の均一性が低い場合に性能が低下することがあるという欠点もある。
その他
上記以外にも、GMM(Gaussian Mixture Model)のような確率モデルに基づくクラスタリングや、スペクトルクラスタリング、ファジィクラスタリングなど、様々な手法が存在する。
クラスタリングと分類の違い
クラスタリングと分類は、どちらもデータをグループ分けする技術であるが、その目的とアプローチには大きな違いがある。クラスタリングは、教師なし学習に分類され、データのラベル(正解)が与えられていない状態で、データ自身の類似性に基づいてグループ分けを行う。一方、分類は教師あり学習に分類され、事前にラベル付けされたデータを用いて学習し、新しいデータがどのグループに属するかを予測する。
クラスタリングの主な目的は、データの中に隠れている構造やパターンを発見することである。つまり、データが自然にどのようなグループを形成しているかを理解し、データの本質的な構造を把握することが目標となる。したがって、クラスタリングの結果は、データ分析における仮説形成や、データ理解の深化に役立つ。
一方、分類の主な目的は、新しいデータがどのグループに属するかを正確に予測することである。したがって、分類モデルの性能は、予測の精度によって評価される。分類は、スパムメールのフィルタリング、画像認識、医療診断など、様々な実用的なタスクに広く応用されている。
クラスタリングと分類を組み合わせることで、より高度なデータ分析が可能となる。例えば、クラスタリングによってデータグループを発見し、それらのグループに対して分類モデルを適用することで、グループごとの特性をより詳細に分析することができる。
まとめ
クラスタリングは、データ分析において非常に強力なツールである。教師なし学習という特性から、データの中に隠れている構造を明らかにし、未知のパターンを発見することができる。k-means法、階層的クラスタリング、DBSCANなど、様々な手法が存在し、データの特性や目的に応じて適切な手法を選択する必要がある。また、クラスタリングと分類の違いを理解し、両者を適切に活用することで、データ分析の可能性は大きく広がるだろう。今後も、クラスタリング技術は進化を続け、より複雑なデータ分析を可能にするであろう。